裁判所書記官の日常その9「調停委員の話術」

弁護士や司法書士など一部の専門職以外の調停委員の方は,多くの場合,法律の知識がそれほどあるわけではありません。

調停は話し合いにより紛争を解決する制度なので,一般人の感覚を大切にする必要があり,裁判所も一般の調停委員に高度の法律知識は要求していません。定期的にある研修会や日々の実務の中で研鑽を積んでいただければ良いと思っています。

調停委員にとって重要なのは,そんな法律知識よりも,紛争当事者の間に入って「話を聞く」「他人を説得する」という話術ないしコミュニケーション術の方だと思います。

ただ,これは一朝一夕に身につくものではありません。ひたすら話を聞いてしまい調停の方向性が定まらないケースや,強引に話を進めすぎて当事者に不満が残るケースなどもあります。
中立的な立場である裁判所としては,どちらかと言えば,聴きすぎよりもしゃべりすぎの調停委員の方が怖いです。実際の経験でこんな調停がありました。
相手方から暴力を振るわれたとして慰謝料を求めた調停で,申立人が女性,相手方が男性。いわゆるDVに近い事情があったため,申立人は相手方に怖さを感じていました。ところが,相手方の話を聞いた調停委員は,申立人に対し,「相手方と話してみたけど,決して悪い人ではないよ。」と言い,本件は偶然起こってしまった出来事のような認識を示しました。申立人は自分自身にも非があるように言われたことにショックを受け,裁判所に苦情を申し入れてきました。

暴言はいうまでもありませんが,失言については誰でもしてしまう可能性があります。もう一度自分の仕事ぶりを見直してみるきっかけとなった出来事でした。

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