「差戻し」という言葉を聞いたことがあると思います。要するに,もう少し審理を尽くせ,審理をやり直せと元の裁判所(原裁判所)に事件を戻すことです。
これは判決を出した原裁判所の裁判官としては,どういう気持ちになるんでしょうかね?
私は,不動産執行を担当していたとき,引渡命令の関係で高裁から差戻しをくらったことがあります。これは非常に面食らったのを覚えています。
確かに,訴訟であれば,主張や証拠の判断は,裁判官により結論が分かれることがあるでしょうから,差戻しというのも理屈ではわかります。
ただ,迅速性が要求される引渡命令の判断は,かなりの程度形式的判断が可能であり,差戻しされた理由は,高裁の執行法の理解不足が原因でした。
執行法は時代に合わせて改正を重ねており,特に当時は引渡命令の発令範囲が変わる重要な改正もありました。それを高裁担当者が知らず,誤った判断のもと差戻してきたのでした。
執行係(地裁)としては,何一つ判断を誤っていないため,担当裁判官とともに頭を抱えてしまいました。
担当裁判官は,高裁の裁判官が知り合いなので電話してみようかなと言っていましたが,電話したところで,こちらの説明に対し「なるほど。間違えちゃったね。」と言われてもねぇ・・・。
その後,運が良いことに,引渡命令の当事者(買受人と占有者)の間で任意退去の話し合いがついたとのことで,結局,引渡命令の申立ては取り下げられ事なきを得ました。
差戻しに振り回されたエピソードでした。